1か月ほど前、Blenderはこれからどう進化する?という記事を書きました。公式のロードマップを読んで「これが来ます」とまとめただけの、手を動かしていない記事です。
今回はその答え合わせをします。実機はWindows(RTX 3060 12GB)、Blender 5.2 LTS と 5.1.2 を並べて、実際に触りました。予測が当たったところより、外れたところのほうが面白い結果になりました😅
・★予測の答え合わせ:7つ当たり・3つ外れ・1つ見落とし
・★板が布になる様子を画像で(ノードベース物理)
・★正体はモディファイアではなかった——「実験的機能をONにする」必要すらなかった
・★テクスチャキャッシュでVRAMが70.6%減。ただし公式が言う「少し遅くなる」は逆でした
・⚠5.1向けのスクリプトが壊れる変更(今回いちばん実務的な発見)
3日後に出ていました
まず時系列から。p946を公開したのが2026年7月11日で、記事には「数日後に5.2 LTSが出る予定」と書きました。
実際のリリースは2026年7月14日。3日後でした。5.x系で初めての長期サポート版で、2028年7月まで面倒を見てもらえます。
BlenderのレンダリングはWindows機(RTX 3060 12GB)で計測しています。当ブログでは3Dエンジンを扱うときは必ずこの機体を使うことにしていて、記事を書くのはMacという分担です。
既存のBlenderには一切触らず、zip版の5.2.0と5.1.2を並べて、設定も分離した状態で計測しました。
用語集
| 用語 | 平たく言うと |
|---|---|
| LTS | 長期サポート版。途中でツールが壊れると困る現場が基準に選ぶバージョン。5.2は2028年7月まで |
| ジオメトリノード | ノードを線で繋いで形を手続き的に作る仕組み。あとから数値を変えれば結果が作り直される |
| モディファイア | オブジェクトに後付けする加工。元の形を壊さずに「細分化する」「曲げる」などを重ねられます |
| EEVEE / Cycles | Blenderに入っている2つのレンダラー(絵にする仕組み)。EEVEEは速さ、Cyclesは本物らしさが持ち味です |
| VRAM | グラフィックボードが持つ専用メモリ。ここに載らないとレンダリングが失敗します。今回の機体は12GB |
| ミップマップ | 1枚の画像からあらかじめ縮小版を何段階か作っておく仕組み。遠くの小さい物には小さい版を使えば速くて済みます |
★答え合わせ:7つ当たり、3つ外れ、1つ見落とし
まず結果を並べます。公式のリリースノートを1項目ずつ突き合わせました。
| p946で「来る」と書いたもの | 実際の5.2 | 判定 |
|---|---|---|
| 5.2 LTSがもうすぐ出る | 7月14日リリース・2028年7月までサポート | ✅ |
| ノードベース物理(一番大きいと書いた) | Cloth Dynamics / Hair Dynamics(★実験的) | ✅ |
| Bevelノード | Mesh Bevel ノード | ✅ |
| Sample Soundノード | Sample Sound Frequencies ノード | ✅ |
| Thin Wallモード | Principled BSDF に Thin Wall 入力 | ✅ |
| Cyclesテクスチャキャッシュ | Texture Cache | ✅ |
| EEVEEの反射・屈折の改善 | Screen Space Raytracing Overhaul | ✅ |
| 新しいFillツール 「メッシュの穴や開いた縁を埋める」 | 来たのは 2Dアニメ(Grease Pencil)の塗りつぶし。新しいDelaunayソルバが既定に | ❌ 分野を取り違え |
| CyclesのOpenPBRノード | リリースノートに記載なし=入らなかった | ❌ |
| アニメーションレイヤー | 記載なし=入らなかった | ❌ |
| (p946は触れていない) | オンラインアセットライブラリ | ★見落とし |
外し方に傾向が出ました。Fillツールは、項目名だけ見て分野を取り違えていたのです。3Dのモデリング機能だと思って書きましたが、実際に来たのは2Dアニメ用の塗りつぶしでした。
そしてOpenPBRとアニメーションレイヤーは、そもそも入りませんでした。ロードマップに載っているからといって、その版に入るとは限りません。
逆にオンラインアセットライブラリは予測にすら出てきませんでした。調べ物では「まだ発表されていないもの」は拾えない、という当たり前のことです。
★板が布になった
ここからが本題です。p946で「一番大きい」と書いたノードベース物理を、実際に動かしました。
やったことは単純です。平面を1枚置いて、Cloth Dynamics を追加して、再生ボタンを押すだけ。
左がただの板、右が120フレーム後です。カメラは動かしていません。皺の寄り方まで含めて、ちゃんと布になりました😊
| 項目 | 実測 |
|---|---|
| 頂点数(細分化後) | 4,225(64×64) |
| シミュレーション時間 | 120フレームで2.6秒 |
| 垂れ幅の推移(Z方向) | 1フレーム目 0.000 → 10フレーム 0.356 → 40フレーム 4.039 → 120フレーム 4.067 |
| 落ち着くまで | ★明確な収束点なし。40フレーム以降も 3.87〜4.09 の間で微振動を続ける |
速度は十分でした。4千頂点の布が2.6秒で120フレーム回るなら、作業の邪魔にはなりません。
おもしろかったのは「いつまでも止まらない」ことです。40フレームでほぼ垂れきったあとも、1ミリ以下の揺れがずっと続きます。物理シミュレーションらしいといえばらしいのですが、「何フレームで落ち着いたか」を数えようとして数えられませんでした。
★正体は「モディファイア」ではなかった
ここが今回いちばん予想外だったところです。
Windows機に向かう前、eightは手順を「Cloth Dynamics モディファイアを追加する。実験的機能なので、設定で有効にする必要があるかもしれない」と見込んでいました。両方とも外れていました。
パネルをよく見ると、ジオメトリノードのアイコンが付いていて、その下に Cloth Dynamics (Experimental) というノードグループ名が並んでいます。つまりこれは——
実体はBlenderに同梱されたジオメトリノードのアセットファイルで、Cloth Dynamics のほかに Hair Dynamics・Collider・Set Effector・Custom Force / Custom Effector まで入っています。
つまり中身を開いて読めるし、改造もできる。「自分で力場を書く」ことが最初から想定された作りでした。
そして「実験的機能を設定でONにする」必要もありませんでした。Preferences の実験的機能は全19項目を確認しましたが、物理系の項目は存在しません。モディファイアの種類(全83種)にも新しい物理は増えていません。
「実験的」であることは、設定ではなく名前に書いてあるだけだったわけです。(Experimental) という文字がそのままアセット名に入っています。ここは調べただけでは絶対に分からない部分でした。
⚠そして衝突が動かなかった
ただ、撮りたかった絵は撮れていません。狙っていたのは「球の上に布をかぶせる」でしたが、上の画像は2隅をピン留めして垂らしただけです。
理由は単純で、衝突させようとするとシミュレーションが止まるからでした。
| 試した条件 | 結果 |
|---|---|
| 衝突なし(対照) | 5フレームが0.0秒で完走 |
| Collider を繋ぐ | 180秒でタイムアウト(CPU使用は0.8秒だけ) |
| 書き出し処理を外して再生だけ | 120秒でタイムアウト(CPU 0.9秒) |
| 画面を開いた状態で1フレームずつ | 10分でタイムアウト(CPU 3.3秒) |
| Collider → Set Effector と正しく配線 | 150秒でタイムアウト(CPU 0.8秒) |
この表でいちばん大事なのは、経過時間に対してCPUをほとんど使っていない点です。180秒待ってCPU使用が0.8秒。
つまり計算が重くて終わらないのではなく、何かを待ったまま戻ってこない状態でした。エラーもクラッシュも出ません。原因は特定できていません。
物理そのものは動くので、止まるのは衝突まわりに限定されています。実験的機能の名に恥じない挙動でした😅
実務で考えると、衝突なしでできるのは旗・カーテン・垂れ幕までです。キャラクターに服を着せる用途にはまだ届きません。旧来のClothモディファイアも残っているので、当面は併用になりそうです。
★テクスチャキャッシュ:メモリ70.6%減、ただし「遅くなる」は逆だった
次はCyclesのテクスチャキャッシュです。ここがいちばん数字の出たところで、しかも公式の説明と食い違いました。
用意したのは4096×4096のPNGを48枚(ディスク上1.65GB)。それぞれ違う模様を貼った板を48枚並べて、Cyclesでレンダリングします。
| 項目 | キャッシュOFF | ON(初回) | ON(2回目) |
|---|---|---|---|
| ピークVRAM | 2,695 MiB | 793 MiB | 793 MiB |
| レンダリング時間 | 3.86 秒 | 20.29 秒 | 1.31 秒 |
| シーンの読み込み | 0.15 秒 | 0.14 秒 | 0.13 秒 |
| キャッシュのディスク使用 | 0 MB | 2,672 MB | 2,672 MB |
公式のリリースノートには、こう書かれています。「メモリ使用量と起動時間を大きく減らす。代わりにレンダリング性能がわずかに落ち、ディスク使用量が増える」。実測と突き合わせます。
| 公式の説明 | 実測 | 判定 |
|---|---|---|
| メモリ使用量を大きく減らす | 2,695 → 793 MiB(-70.6%) | ✅ そのとおり |
| ディスク使用量が増える | 0 → 2,672 MB | ✅ そのとおり |
| レンダリング性能が少し落ちる | 3.86 → 1.31秒(2.9倍速くなった) | ❌ 逆でした |
| 起動時間を減らす | 0.15 → 0.13秒(差なし) | ➖ 確認できず |
キャッシュが作る
.tx ファイルはタイル化+ミップマップ付きです。画面の中で小さく写っている板には、4Kの原寸ではなく小さい版が読まれます。今回のシーンは48枚がすべて縮小表示なので、読む量そのものが減って速くなったと考えられます。逆にテクスチャを等倍〜拡大で見るシーンなら、公式の説明どおり遅くなるはずです。条件次第、というのが正確なところだと思います。
これは
.tx ファイルを作る一度きりのコストです。2回目以降は1.31秒になります。ここを取り違えると評価が真逆になります。
絵は同じなのか
メモリが7割減ったなら、画質が落ちていないかが気になります。同じ構図・同じサンプル数で撮った2枚がこちらです。
見分けがつきません。数値で比べても、平均誤差0.0013・RMSE 0.0026で、5%より大きく違う画素は0%でした。ただしビット単位では一致していません(1%より大きく違う画素が0.512%)。ミップマップ経由で読む以上、わずかな差は出ます。
実用上は「メモリだけ減って画質は変わらない」と考えて差し支えなさそうです。VRAM 12GBの機体で今まで落ちていたシーンが通るようになるなら、ディスクを2.6GB使う取引は安いと思います。
Mesh Bevel と Thin Wall
見た目で分かりやすい2つも試しました。こちらはどちらもすぐ動きました。
Mesh Bevel ノード
角が丸くなり、そこにハイライトが乗りました。頂点数は8個から296個に増えています(Segments 6)。
ひとつ、手順を書き出したときの思い込みが間違っていました。「量(Amount)を変える」と書いていたのですが、そんな入力はありません。
実際の入力は Offset で、しかも辺の始点・終点ごとに4つに分かれています(Start Left / Start Right / End Left / End Right)。出力側も Mesh のほかに Vertex Face / Edge Face / Outer Edge / Mid Edge があり、ベベルで生まれた面や辺を選択として取り出せます。単なる面取りではなく、その先に繋ぐことを前提にした作りですね。
Thin Wall
ガラスの筒越しに格子模様を見ています。OFFでは格子がずれて見え、ONでは背景とほぼ連続します。厚みのある物体として屈折させるか、薄い膜として扱うかの違いです。
コップやガラス窓のように実際には薄いものを作るとき、これまでは厚みを作り込む必要がありました。チェックひとつで済むようになったのは地味に効きそうです。
EEVEEの「互換性を壊す変更」は、実質1項目だった
リリースノートでいちばん物々しく書かれていたのがEEVEEでした。「互換性を壊す変更を含むが、長年の使いにくさに対処した」とあります。
そこで、5.1.2で作って保存したファイルを、そのまま5.2.0で開いてレンダリングしました。
違いが分かりません。数値で比べても平均誤差0.00006・RMSE 0.0005で、実質同一でした。レンダリング時間も0.93秒 対 0.94秒です。
1回目の計測では 5.1が12.94秒、5.2が1.50秒という大差が出ました。ところがこれはシェーダのコンパイル結果が残っていたかどうかの差で、性能差ではありません。
2回目を測ったら 0.93秒 対 0.94秒。1回目だけ見て記事にしていたら、完全な誤報になっていました。
設定項目も機械的に比べました。scene.eevee の項目数は5.1が54個、5.2が53個。消えたのは fast_gi_thickness_far というひとつだけで、増えた項目はありません。
「互換性を壊す」と書かれてはいるものの、基本的な反射・屈折のシーンでは絵も時間も設定もほとんど変わらないというのが実測の結論です。旧来のスクリーンスペース反射を細かく作り込んでいたファイルでは影響が出るのかもしれませんが、今回の範囲では再現できませんでした。
⚠5.1向けに書いたスクリプトは壊れます
最後に、今回いちばん実務的な発見を。ジオメトリノードの入力をスクリプトから設定する書き方が変わりました。
4.x系までの定石はこうでした。
# ❌ 5.2では失敗する
modifier["Socket_2"] = value
# → bpy_struct[key] = val: id properties not supported for this type
5.2では入力が専用の構造体に移されたので、こう書きます。
# ✅ 5.2での書き方
m.properties.inputs["Socket_7"] = collection
# 頂点グループ(属性)に紐づける場合
st = getattr(m.properties.inputs, "Socket_2")
st.type = "ATTRIBUTE"
st.attribute_name = "pin"
入力の構造体が持つのは name / value / type / attribute_name の4つで、type は VALUE か ATTRIBUTE です。
例外を握りつぶす書き方をしていると、「設定したつもり」で先に進んでしまいます。実際、今回の検証でも最初はこれで衝突の設定が入っておらず、布がただ落下していくだけの状態で気づくのに時間がかかりました。
5.1以前向けのアドオンやスクリプトは、ここで壊れます。
まとめ
- Blender 5.2 LTS は2026年7月14日リリース。p946を書いた3日後でした。サポートは2028年7月まで
- ★予測は7つ当たり・3つ外れ・1つ見落とし。外れ方に傾向があって、Fillツールは項目名だけ見て分野を取り違え(3Dのモデリングだと思ったら2Dアニメの塗りつぶしだった)、OpenPBRとアニメーションレイヤーはそもそも入らなかった
- ★板にCloth Dynamicsを足すだけで布になりました。4,225頂点・120フレームで2.6秒。ただし明確に止まることはなく、微振動を続けます
- ★★正体はモディファイアではなくジオメトリノードのアセットでした。中身を開いて読めるし改造もできる。Custom Force / Custom Effector まで同梱されていて、自分で力場を書く前提の設計です
- ★「実験的機能を設定でONにする」必要はありませんでした。実験的であることはアセット名に書いてあるだけ
- ⚠衝突が動きませんでした。5通り試して全部タイムアウト。しかもCPUをほとんど使わずに待っている状態で、重いのではなく戻ってこない。原因は特定できていません
- ★テクスチャキャッシュでVRAMが70.6%減(2,695→793 MiB)。ディスクは2.6GB増。ここは公式の説明どおり
- ★★ただし「レンダリングが少し遅くなる」は逆でした——3.86秒→1.31秒で2.9倍速くなっています。
.txがミップマップ付きで、縮小表示なら読む量が減るためだと考えています。条件次第で、拡大表示なら遅くなるはずです - Mesh Bevel の入力は
AmountではなくOffset(しかも辺の始点・終点ごとに4つ)。出力からベベルで生まれた面や辺を取り出せます - Thin Wall はチェックひとつで、薄いガラスの見え方が変わります
- ★EEVEEの「互換性を壊す変更」は、実質1項目でした。絵も時間もほぼ同一で、消えた設定は
fast_gi_thickness_farだけ - ⚠1回目の計測では5.2が8.6倍速く見えました。シェーダのコンパイルキャッシュの差で、2回目は0.93対0.94秒。1回で判断していたら誤報でした
- ⚠★ジオメトリノードの入力をスクリプトで設定する書き方が変わりました。5.1以前向けのアドオンは壊れます。しかも失敗が静かで、設定したつもりで進んでしまいます
「調べただけの記事」と「触った記事」の差が、思っていたよりはっきり出ました。当たり外れもそうですが、調べても分からなかったことのほうが多かったのが正直な感想です。物理がアセットとして配られていることも、衝突が動かないことも、公式の文章を何度読んでも出てきません。
そしてテクスチャキャッシュのように、公式が「遅くなる」と書いているのに速くなることすらありました。書いてあることが間違っているのではなく、条件が違えば結果も変わる、というだけの話なのですが、それを知るには結局測るしかないわけですね😊
それでは、今回はここまで。最後までありがとうございました😊
【実測環境】Windows 11 Pro 25H2 (build 26200.8875) / AMD Ryzen 7 7840HS / 32GB / NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB(ドライバ 610.47)。Blender は公式配布のzip版を展開して使用し、5.2.0 LTS(hash fbe6228777e7・built 2026-07-14)と 5.1.2 を、設定を分離した状態で併存させています(既存のインストール済みBlenderには触れていません)。Cycles は GPU(OptiX)、1280×720・256サンプル・デノイズOFF。テクスチャキャッシュの検証は 4096×4096 のPNG 48枚(ディスク上1.65GB)を48枚の板に貼ったシーンで、VRAMは nvidia-smi を200ミリ秒間隔でサンプリングした最大値からアイドル値を引いています。EEVEEの比較は 5.1.2 で保存した .blend をそのまま 5.2.0 で開いたもので、5.2側では保存していません。レンダリング画像はすべて Blender 自身に書き出させたもので、画面キャプチャではありません(UIパネルの3枚のみウィンドウ単位でキャプチャ)。答え合わせに使った一次情報は公式リリースノート(developer.blender.org の 5.2 各セクション)で、2026年8月2日に確認しています。★Hair Dynamics は衝突問題の切り分けに時間を要したため未検証です。★衝突が止まる原因は特定できておらず、本文の記述は観測された事実にとどめています。仕様・数値は版により変わります。