1年半ほど前にMacでWindows用ゲームを動かす記事を書きました。Whiskyという無料ツールを紹介したもので、ありがたいことに今でも当ブログで最もよく読まれています。
ところがそのWhiskyは、2025年4月に開発が終了しました。作者が開発を続けないことを表明したのです。記事には追記を入れましたが、「じゃあ今は何を使えばいいのか」という肝心の答えを示せていませんでした。
そこで実際に手を動かして確かめることにしました。結論から書きます。ゲームの画面には、一度も辿り着けませんでした😇
・Whiskyは今も動くのか(動きます。ただし条件つき)
・★Steamを起動したら壊れた——更新が止まったツールの実害
・Wineを入れ替えれば直るのか(直りました。対照実験つき)
・★それでも越えられなかった壁:Chromium製UIが描画されない
・日本語が「□」になる問題の直し方(これは解決しました)
・★Rosetta 2の終了——この方式そのものに期限がある
※実測環境は Apple M4 / メモリ32GB / macOS 26.5.2、2026年7月20日の作業記録です。ソフトの状況は短期間で変わるので、時点情報としてお読みください。
この記事を書くことになった経緯
Whiskyの開発終了について、作者は理由を説明しています。要約するとこうです。
WhiskyはCrossOver(有料ソフト)の技術を土台にしている。それを無料で提供し続けると、土台であるCrossOverとWineの開発が立ち行かなくなる。だから開発をやめ、利用者にはCrossOverへ移ってほしい。
「無料ツールが、無料であるがゆえに生態系を壊してしまう」という、なかなか考えさせられる理由です。技術的に行き詰まったわけではありません。
とはいえアプリ自体は残っています。手元のMacにも入っていました。「開発が止まっただけで、動くなら使えるのでは?」——まずそこから確かめます。
先に用語を片付けておく
この記事には耳慣れない言葉が出てきます。先にまとめておきます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| Wine | WindowsアプリをWindows以外で動かす仕組み。Windowsを丸ごと入れるのではなく、アプリからの命令をその場で翻訳する。仮想マシンより軽いのが利点 |
| Whisky | WineをMacで使いやすくした無料の皮。中身はWine+後述のD3DMetal。2025年4月に開発終了 |
| ボトル/プレフィックス | Wineが作る「仮想のCドライブ」。アプリごとに独立した環境を作れるので、1つ壊れても他に影響しない |
| DirectX | Windowsのゲームが描画に使う仕組み。Macには存在しないので翻訳が必要 |
| Metal | Appleの描画の仕組み。DirectXのMac版にあたる |
| D3DMetal / DXMT / DXVK | DirectXをMetalへ翻訳する部品。D3DMetalはApple製、DXMTとDXVKは有志製。これが無いとゲームは描画できない |
| CEF | Chromium Embedded Framework。アプリの画面をWebページの技術で作る仕組み。SteamもEpicも最近のランチャーはほぼこれ。★今回の最大の壁 |
| Rosetta 2 | Intel向けに作られたアプリを、Apple SiliconのMacで動かす変換の仕組み。★これが終了予定 |
検証①:開発終了したWhiskyは、今も動くのか
手元のWhiskyはバージョン2.3.5、導入日は2025年4月9日でした。開発終了の直前で、事実上の最終版です。
中身を見ると、こうなっていました。
Libraries/ Wine/bin/wine64 ← Wine本体 Wine/lib/external/D3DMetal.framework ← AppleのDirectX→Metal変換
WhiskyはWineとAppleのD3DMetalを組み合わせたものだと確認できます。つまりWhiskyを動かすことは、AppleのGame Porting Toolkitの中核を動かすことでもあります。
では動くのか。macOS 26.5.2で試しました。
$ wine64 --version wine-7.7 $ wine64 cmd /c "echo test && ver" test Microsoft Windows 10.0.22000
動きました。開発終了から1年3か月経った最新のmacOSで、Whiskyは問題なく起動し、Windowsのコマンドを実行できています。
ここまでは順調でした。ここから崩れます。
事故:Steamを起動したら、壊れた
ゲームを動かすにはSteamが要ります。Whiskyのボトルの中に、1年以上前に入れたWindows版のSteamが残っていたので、それを起動しました。
するとSteamが自己更新を始めました。しばらく待つと更新は完了し——そこから二度と起動しなくなりました。
画面には「steamwebhelperが応答していません」というエラーだけが出ます。ログを見ると、原因は明確でした。
2026-07-20 20:49:30 Downloaded new manifest: /steam_client_win64
version 1782866176, installed version 0
installed version 0——この瞬間、Steamは初めて64bit版のクライアントを取得しました。それまでは32bit版で動いていたのです。
そして更新後のログは、10秒ごとにこれを繰り返していました。
Startup - webhelper launched ... startcount=21 Startup - webhelper launched ... startcount=22 Startup - webhelper launched ... startcount=23
画面を描く部品(steamwebhelper)が起動に失敗しては再起動する、無限ループです。
旧バージョンに戻すこともできませんでした。更新によって古いクライアントの実体が上書きされており、記録(manifest)だけが残っている状態でした。起動した瞬間に、後戻りできなくなっていたわけです。
正直に書くと、これは私の詰めが甘かったです。1年以上放置したアプリを起動すれば更新が走るのは、考えれば分かることでした😖
検証②:原因はWhiskyか、Steamか、macOSか
壊れたのは事実ですが、何が悪かったのかを切り分けないと記事になりません。候補は3つです。
Whisky自体は動いたので③は消えます。残る①と②を分けるには、Wineだけを新しくして同じSteamを動かせばいい。動けばWineが原因、動かなければSteamが原因です。
検証③:Wineを新しくすれば直るのか
Whiskyは開発終了しているので、Wineを新しくする手段が本体にはありません。そこでHeroic Games Launcher(無料・オープンソース)を導入しました。これはWineを自分で管理してくれるlauncherです。
Heroicが取得できるWineのうち、いちばん新しいものを入れました。
| Whisky同梱 | 今回入れたもの | |
|---|---|---|
| Wineのバージョン | 7.7(2022年) | 11.13(2026年7月17日) |
| DirectX変換 | D3DMetal | DXMT + MoltenVK 1.4.1 |
約4年分の差があります。新しいプレフィックス(仮想Cドライブ)を作り、そこにSteamを入れ直しました。結果です。
Wine 11.13では、Steamが起動しました。無限ループしていた steamwebhelper が正常に立ち上がり、「Steamにサインイン」のウィンドウが出るところまで到達しました。
これで原因が確定します。
これが開発終了の実害です。Whisky本体は今も動く。けれど中身のWineは2022年で止まっている。世の中のソフトは進化し続けるので、ある日の更新をきっかけに、静かに動かなくなる。
次の壁:画面が真っ黒になる
サインイン画面までは出ました。ところが——その中身が真っ黒でした。ウィンドウの枠は表示されるのに、内側に何も描かれません。
ログを見ると、こう出ていました。
ERROR:angle_platform_impl.cc Renderer11.cpp: Error querying...
ERROR:gl_display.cc eglCreateContext: Requested GLES version (3.0)
is greater than ...
SteamのUIはCEF(Chromiumで画面を作る仕組み)でできており、その描画がDirectX 11を経由しようとして失敗しています。
考えられる対処を、順に試しました。
| 試したこと | 狙い | 結果 |
|---|---|---|
| DXMTを導入 | DirectX 11を動くようにする | ❌ |
-cef-disable-gpu | GPUを使わず描画させる | ❌(エラーは消えたが画面は黒いまま) |
-cef-in-process-gpu | 描画を同一プロセスで行う | ❌ |
-cef-single-process | プロセス分割をやめる | ❌ |
| CEFキャッシュ削除 | 壊れた描画データを消す | ❌ |
| Wine仮想デスクトップ | 画面の合成方法を変える | ❌(起動せず) |
エラーが消えても画面は黒いままだったのが厄介でした。ログ上は正常なのに、見た目だけが真っ黒なのです。
Steamを諦めて、ゲームを直接入れてみる
Steamが駄目なら、Steamを通さなければいい。今回の検証対象に選んでいたWarframe(基本無料)は、公式サイトから直接インストールできます。
Warframeを選んだ理由は3つあります。
① 基本無料。この検証ではお金を払って買うソフトは使わない方針にしました。有料のものは紹介にとどめます。
② Mac版が存在しない。Windows専用なので、翻訳して動かす試験として成立します。
③ 規約が明確。Warframeの規約は「ファンサイトやYouTube動画などに広告を加えることは可能」と、広告のあるサイトでの扱いを明文で認めています。当ブログには広告があるので、ここは事前に確認しました。
公式のインストーラ(Digital Extremes署名つき、104MB)を取得して導入すると、ランチャーは無事に起動しました。ログでも通信ができていることが確認できます。
Finished ClientIP (0.3 seconds) ← ネットワークOK OS Version: 10.0 (SP0, build 19045) ← Windows 10として認識 Created default install directory C:\Program Files\Warframe
同じ壁:今度は真っ白
ところが、ランチャーの画面が真っ白でした。右上の言語選択や閉じるボタンは表示されるのに、中身だけが白いまま。
レジストリを見て、理由が分かりました。
[Software\Digital Extremes\Warframe] @="LauncherCEFV7"
Warframeのランチャーも、CEF製でした。Steamは黒、Warframeは白。色が違うだけで、まったく同じ壁です。
これは深刻です。最近のゲームランチャーは、ほぼすべてCEF製だからです。Steam、Epic、そしてWarframe。ここが通らないと、ゲーム本体を起動する画面に辿り着けません。
ログを見ると、Warframeのランチャーは利用規約のファイルまでダウンロードして待っていました。つまり「規約に同意してください」の画面を出そうとして、それが描画できずに止まっていたわけです。あと一歩のところで、押すべきボタンが見えない😅
寄り道:日本語が「□」になる問題は解決した
途中、エラーメッセージがすべて □□□□ になって読めなくなりました。Wineの環境に日本語フォントが入っていないためです。これは解決できたので、手順を残しておきます。
まずうまくいかなかった方法から。macOSのヒラギノをコピーしても効きませんでした。
# ❌ 効かない:.ttc形式かつファイル名が日本語だと認識されない cp "/System/Library/Fonts/ヒラギノ角ゴシック W3.ttc" \ "$WINEPREFIX/drive_c/windows/Fonts/"
うまくいったのは、ASCII名のTTFを使う方法です。macOSに最初から入っている Arial Unicode.ttf は日本語を含んでいます。
# ✅ これで直る cp "/System/Library/Fonts/Supplemental/Arial Unicode.ttf" \ "$WINEPREFIX/drive_c/windows/Fonts/arialuni.ttf" # あわせて「このフォントの代わりにこれを使う」と登録する [HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Windows NT\CurrentVersion\FontSubstitutes] "MS UI Gothic"="Arial Unicode MS" "MS Gothic"="Arial Unicode MS" "Meiryo"="Arial Unicode MS" "Yu Gothic"="Arial Unicode MS" "MS Shell Dlg"="Arial Unicode MS"
追加のダウンロードなしで、macOS標準のフォントだけで直ります。「ファイルが見つかりません」「デスクトップ」「マイ コンピューター」がすべて読めるようになりました。Wineで日本語が豆腐になったときは、これで解決できます。
ただし裏を返せば、無料環境では日本語表示ですら自分で用意する必要があるということでもあります。
そして、この方式には期限がある
作業中、macOSからこんな通知が出ました。
「Intelプロセッサ用アプリの対応は終了します」
このバージョンの "Wine Staging" には、今後のmacOSリリースでは動作しないコンポーネントが含まれています。
調べて、背筋が伸びました。MacのWineは、すべてIntel向けのプログラムだったのです。
$ file wine Mach-O 64-bit executable x86_64 ← Intel向け(Rosetta 2で変換して実行)
Apple SiliconのMacでは、Rosetta 2という仕組みがIntel向けプログラムを変換して動かしています。そのRosetta 2に、終了予定が発表されています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| macOS 26.4 以降 | Rosetta 2を使うアプリの起動時に警告を表示(← 今回出たもの) |
| macOS 27(2026年秋予定) | Rosetta 2に対応する最後のバージョン |
| macOS 28(2027年秋予定) | Rosetta 2は大部分で動作しなくなる |
つまり「x86のWineでWindowsゲームを動かす」という手法には、あと1〜2年という期限があることになります。
だからこそ、有料のCrossOverはバージョン27からApple Silicon専用・ARMネイティブ化を進めています。お金を取っている側は、この期限に向けて手を打っているわけですね。
結局、Macでゲームをするには
今回は無料の範囲しか試していないので、有料・純正の選択肢は紹介にとどめます。実際に触っていないものを評価はできません。
| 選択肢 | 費用 | 状況 |
|---|---|---|
| Mac対応版を買う | ゲーム代のみ | いちばん確実。Death Stranding、バイオRE:2、Hades II、Cyberpunk 2077 など対応が増加中 |
| CrossOver | 有料 | Whisky作者の推奨先。26.2.0でWine 11.0+D3DMetal 3.0。27からApple Silicon専用へ |
| Apple純正 Game Porting Toolkit | 無料 | ただし導入にIntel版Homebrewの新設が必要で管理者権限も要る。開発者向け |
| クラウドゲーミング | 無料枠あり | Mac側の性能に依存しない。回線品質次第 |
| Whisky | 無料 | ❌ これから始める人には勧められない |
「無料で気軽に」を求めるなら、今はクラウドゲーミングかMac対応版だと思います。互換レイヤーで頑張るのは、手間と期限の両方を引き受ける覚悟が要ります。
まとめ
ゲーム画面には辿り着けませんでしたが、分かったことは多くありました。
- Whisky本体は今も動く(macOS 26.5.2で確認)。ただし中身のWineは2022年のまま
- ★Steamの64bit化に追随できず、起動した瞬間に壊れた。旧版へ戻すこともできない
- ★Wineを11.13にすれば起動する——問題はSteamでもmacOSでもなく、更新が止まったWineだけが取り残されていた
- ★CEF(Chromium製UI)が描画されない。SteamもWarframeも画面が黒/白のまま。6つの対処すべて失敗
- 日本語の豆腐化は解決できる(Arial Unicode+フォント代替の登録)
- ★Rosetta 2はmacOS 28で終了。x86 Wineという方式そのものに期限がある
いちばん考えさせられたのは、「開発終了」の意味が想像より重かったことです。ソフトが動かなくなるのではなく、周りが進み続けるのに、そこだけ止まる。1年3か月経った今、Whiskyは起動はするけれど、現代のSteamは動かせない。この差は今後も開き続けます。
そしてWhisky作者の「CrossOverを使ってほしい」という言葉の意味が、実際に手を動かして初めて分かりました。CEFの描画を通し、フォントを揃え、Rosetta終了に備えてARM版を作る——誰かがその作業を続けなければ、この道は途絶えます。無料で使えていたものは、有料の誰かの仕事の上に乗っていたわけですね。
正直、今回はうまくいかなかった記録です。ただ「試したら動きました」より、どこで詰まるかを具体的に書いたほうが、これから試す方の役に立つのではないかと思い、そのまま残すことにしました😊
それでは、今回はここまで。最後までありがとうございました😊
【主な参考】CodeWeavers「Whisky's Legacy」(開発終了の経緯)/MacRumors(Whisky開発終了の報道)/Gcenx macOS Wine builds/Heroic Games Launcher/Warframe コンテンツポリシー/CrossOver 変更履歴/Rosetta 2の終了時期に関する各社報道。いずれも2026年7月時点で確認。実測環境=Apple M4・32GB・macOS 26.5.2。