MacでWindowsのゲームを動かす無料の道具として、長いあいだWhiskyが定番でした。ところがWhiskyは2025年4月に開発を終えています。2026年版・MacでWindowsゲームを無料で遊ぶで5つの手段を並べたとき、その1つとして名前だけ挙げたのがPorting Kitでした。単独で書いていなかったので、今回は最初から最後までやってみます。

結論から書くと、2年近く越えられなかった壁を越えました😳 Whisky亡きあと、Macで無料でどこまで遊べるのかではSteamが黒画面のまま6つの対処を全部試して失敗し、Apple純正のGame Porting Toolkitを使い倒すでも同じ場所で止まっていました。それが今回、あっさり動きます。

ただし「Porting Kitだから動いた」わけでもありませんでした。同じPorting Kitの中に動く組み合わせと動かない組み合わせがあって、そこがこの記事のいちばん面白いところです。

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用語集

言葉意味
互換レイヤーWindowsのアプリをMacで動かすための「翻訳」の層。エミュレータと違い、Windowsそのものは動かさず、アプリがOSに出す命令をMac側の命令に置き換える
Wineその代表格。長い歴史のあるオープンソースの実装で、版によって動くものが大きく変わる
プレフィックスWineが作る「偽物のCドライブ」。1つのアプリにつき1つ用意するのが基本で、中に drive_c がまるごと入っている
ラッパープレフィックスとWineをひとまとめにして、Macのアプリ(.app)の形にしたもの。ダブルクリックで起動できるようになる
DXVKDirectXの命令をVulkanという別の規格に変換する仕組み。MacにはVulkanが無いので、さらにMoltenVKでMetalに変換する2段構えになる
DXMTDirectX 10/11を直接Metalに変換する仕組み。間に1段少ないぶん有利とされる
D3DMetalApple純正の変換層(Game Porting Toolkitに入っている)。p967で扱ったもの
CEFChromiumをアプリに組み込むための部品。Steamの画面はこれで描かれている。ここが動かないとSteamは真っ黒・真っ白になる
WineskinWineとプレフィックスを .app にまとめる古くからの道具。Porting Kitはこれを土台にしている
ポート/WSIPorting Kitでの「このゲームはこう入れる」というレシピ。約1,500本ぶん用意されている

【下調べ】Porting Kitとは何か ── Wineを同梱しない器

まず何者なのかを調べました(2026年8月時点)。

項目
最新版7.0.2(2026-06-19リリース/2026-08-05更新)
料金無料(itch.ioの「name your own price」なので0円で入手できる)
配布Apple Silicon版 138MB / Intel版 143MB(別ダウンロード)
必要OSmacOS 12以上
中身新しいPorting Kit Wineエンジン(Wine 11 + DXMT)

そして、ダウンロードしたアプリの中を開いて分かったことがあります。

Porting KitはWineを持っていない
アプリの正体は Electron製のマネージャでした。272MBあるFrameworksはElectron本体で、Wineの実体はバンドル内に1つもありません。同梱されているのは 7zip / innoextract / unrar といった、インストーラを展開するための道具だけです。

ここがWhiskyとの構造的な違いです。手元のWhiskyを調べると、こうなっていました。

$ ~/Library/Application\ Support/com.isaacmarovitz.Whisky/Libraries/Wine/bin/wine64 --version
wine-7.7                 ← Whiskyは自分の中にWineを持っている(854MB)
Wineをどこに置くか ── 設計が正反対 Whisky Wine 7.7(1つだけ) アプリに同梱・854MB ボトルA ボトルB ボトルC 1つのWineを全部で共有する → 配布元が消えても、手元のものは動き続ける Porting Kit 本体はマネージャだけ(Electron) Wineは持たない ポートAWine一式 ポートBWine一式 ポートCWine一式 ポートごとにWineを丸ごと抱える(各800MB) → 配布元が落ちると新規導入が止まる

この図の右下、「配布元が落ちると詰む」は想像で書いたのではありません。実際に起きました。あとの章で書きます。

【下調べ・承前】Apple公式のGPTKとは、どういう関係なのか

ここで混乱しやすいのが、Appleが出している Game Porting Toolkit(GPTK) との関係です。どちらも「MacでWindowsのゲームを動かす」ものに見えますが、層が違います。

p967でGPTKを分解したときの結論はこうでした。GPTKは「自分のゲームの実行ファイルを評価する」ための道具で、Appleが開発者に配っているものです。中身の主役は D3DMetal という変換部品で、DirectXの命令をMetalに置き換えます。

対してPorting Kitは、変換部品を含む「エンジン」を選んで、ゲームごとに環境を組み立てる管理ツールです。競合というより、GPTKが部品、Porting Kitが組み立て役という関係になります。

GPTK(Apple公式)Porting Kit
作っているのはApple第三者(個人)
目的移植の検討・評価(開発者向け)遊ぶための環境を組み立てる
入手⚠ 無料の開発者アカウントでサインインが必要サインイン不要
DirectXの変換D3DMetal(Apple製)DXVK / DXMT など複数から選ぶ
Wine同梱(p967で見た版は 7.7)エンジンごとに違う(今回は 10.0 / 11.0)
ゲームの入れ方自分で用意する約1,500本のレシピから選べる

実際に何が入っているかは、ファイルを見れば分かります。p967で使ったのと同じ手で、d3d11.dll の大きさを見比べます。

# GPTK(p967で測ったもの・64bit側)
x86_64-windows/d3d11.dll        106,496 B     ← 薄いシム。中身はD3DMetalに渡すだけ
lib/external/D3DMetal.framework               ← 変換の本体はこちら

# Porting Kit / DXMT版
prefix/…/system32/d3d11.dll   5,304,320 B     ← DLL自身が変換する(文字列に "DXMT")
D3DMetal.framework                            ← 無し

# Porting Kit / DXVK版
prefix/…/system32/d3d11.dll   3,895,959 B     ← DLL自身が変換する(文字列に "DXVK")
D3DMetal.framework                            ← 無し

GPTKは「薄いDLLがAppleの部品を呼ぶ」構造で、DXMTとDXVKは「太いDLL自身が変換する」構造です。そして今回入れた2つのポートには、D3DMetalは入っていませんでした。

DirectXがMetalに届くまでの3つの経路 ゲーム DirectX GPTK d3d11.dll(106KB) D3DMetal(Apple製) Metal DXMT d3d11.dll(5.3MB)── これ自体が変換する Metal DXVK d3d11.dll(3.9MB)→ Vulkan MoltenVK Metal DXVKだけ1段多い。DXMTは「直接Metalへ」を売りにしている

Porting Kit自身もD3DMetalを配ってはいます。作者のGitHubに porting-kit-d3dmetal というリポジトリがあります。⚠ ただし置かれているのは D3DMetal 1.0.4(2023-09-15) で、p967で見たGPTK 3.0-3 に入っていた D3DMetal 3.0 よりかなり古いものでした。

まとめると
GPTKはAppleが配る変換部品と評価環境、Porting Kitはエンジンを選んでゲームごとに環境を組み立てる管理ツールです。⚠ Porting KitはGPTKの上に作られているわけではありません。今回入れた2つのポートはD3DMetalを使っておらず、DXMTとDXVKという別の変換部品で動いていました。
なお、Steamのポートには「Metal」という3つ目の選択肢もあります(2025-11-28更新)。名前からするとD3DMetal系と思われますが、今回は試していません。

【手順1】入手する ── itch.ioからしか配れていない

ダウンロードでいきなりつまずきました。公式サイト portingkit.com にはダウンロードのページがありますが、そこにあるのはitch.ioへのリンクだけです。ページ内のリンクを全部並べて確認しても、直接の .dmg リンクはありませんでした。

itch.ioは「name your own price」という形式で、0円でも入手できます。手順は次のとおりです。

  1. ページの Download Now を押す
  2. 支払い画面が出るので 「No thanks, just take me to the downloads」 を選ぶ
  3. ファイル一覧から Apple Silicon版 を選ぶ

⚠ 3つ間違えやすいところ
① Apple Silicon版とIntel版が別(138MBと143MB)。混ぜると動きません
② 一覧に 6.5.0という古い版も並んでいます(「Old - no support」表記)
③ macOS 26.5以降でハングする不具合が7.0.2で直っているので、古い版を掴むと詰みます

なお、GitHubにも作者のリポジトリがありますが、置かれているのは6.7.0までで、7.0.2はitch.ioにしかありませんでした。

【手順2】開く前に検疫する

無料のツールを入れるときは、開く前に確かめておきたいところです。特にPorting Kitのライセンスには「WineはどんなWindowsアプリでもMacに入れられる。つまりウイルスも同じなので、信頼できない出所を避けること」とはっきり書いてあります。道具そのものも同じ目で見ておきます。

# どこから来たファイルか(ダウンロード元が記録されている)
$ xattr -p com.apple.metadata:kMDItemWhereFroms "Porting.Kit-7.0.2-Apple Silicon.dmg"
…/upload2/game/4361635/17982452?X-Amz-…      ← itch.ioの配信元

# 中のアプリの署名と公証
$ codesign -dv --verbose=2 "/Volumes/…/Porting Kit.app"
Authority=Developer ID Application: …
Authority=Apple Root CA

$ spctl -a -vvv -t exec "/Volumes/…/Porting Kit.app"
accepted
source=Notarized Developer ID                 ← 公証を通っている

# アーキテクチャ
$ lipo -archs "…/Porting Kit.app/Contents/MacOS/Porting Kit"
arm64                                          ← Apple Siliconネイティブ

結果はDeveloper ID署名あり・公証済み・arm64ネイティブでした。⚠ 一点だけ注意すると、DMGそのものは未署名です。署名されているのは中の .app のほうなので、混同しないようにします。

細かい食い違いも見つけました。アプリの Info.plist には対応OSが 10.15 と書いてあるのに、作者の告知は「macOS 12以上」です。実際の下限は告知のほうを信じたほうが安全でしょう。

【手順3】セットアップは7段 ── 許可を与えなくても進める

起動するとウィザードが始まります。7段あって、そのうち2つは読んでから決めたほうがいいものでした。

#画面中身
1Porting KitContinueするだけ
2License Agreement全7項。★下記
3Folder Permissions★DownloadsとDesktopへのアクセス。どちらも許可しなくても進める
4No Microphone★ゲームのポートが初回にマイク権限を求めることがあるので、先に拒否させるための任意ボタン
5Analytics⚠★既定でオン
6Applications default pathポートの保存先。既定は ~/アプリケーション
7GOG.com integrationログインするとGOGのオフラインインストーラを直接取得できる

ライセンスで目を留めたのは2つです。5. Information には「GPUのモデルとCPUのメーカーを匿名で取得し、投票時にサーバーへ送ることに同意する。用途はランキングの投票制限と調査目的で、それ以外の情報は取得も共有もしない」とあります。6. Security は前述のウイルスの話です。どちらも画面に明記されているので、推測せずに読めます。

③のフォルダ許可は、チェックを付けずに進めました。確認のダイアログが出ますが「Proceed anyway」で通ります。Porting Kit自身のライブラリから入れるぶんには、Downloadsを覗いてもらう必要がないからです。

⑤は気をつけたいところでした。

Porting Kitのセットアップ画面。「クラッシュと利用データを開発者と共有する」のチェックが既定でオンになっている

解析データの共有は、何もしなければオンのままです。今回は外して進めました。

【実験1】ライブラリを開いたら、1枚しか出てこなかった

セットアップを終えて「All games」を開きます。約1,500本が並ぶはずでした。

出てきたのは「CUSTOM PORT」の1枚だけです😅

アプリ内の「News」を開くと、理由が書いてありました。

Web server is down
Error code 521
2026-08-22 07:46:25 UTC

作者のサーバーが落ちていました。自分でも確かめます。

$ curl -s -o /dev/null -w "%{http_code}\n" https://www.paulthetall.com/
521          ← Cloudflareは応答するが、その先が死んでいる

$ curl -s -o /dev/null -w "%{http_code}\n" https://www.portingkit.com/
000          ← TCPすら応答なし

$ dig +short portingkit.com
184.154.118.34          ← DNSは正常に引ける=サーバー側の障害

3回ずつ叩いても同じでした。そして portingkit.com は、エンジンと依存ファイルの置き場でもあります(アプリの中に /wineskin/dependencies/… というパスが埋まっています)。

【承前】GitHubで迂回できないか調べた ── できなかった

作者はGitHubにもリポジトリを持っています。そちらから取れないか確認しました。

リポジトリ中身最終更新
porting-kit-releasesアプリ本体。⚠最新は6.7.02025-11-19
porting-kit-engines⚠2021年のWineskinエンジンと古いAppImageのみ2022-08-15
porting-kit-wrappersWineskin本体2025-10-27

現行のエンジンはGitHubに置かれていません。 つまりサーバーが落ちているあいだは、ライブラリも見られず、エンジンも取れません。新規に何かを入れることは完全に不可能でした。

「開発が続いている」と「いつでも使える」は別
Whiskyの移行ガイドでは、Whiskyは開発を終えているのに、Wineを同梱しているから動き続けると書きました。今回はちょうどその裏返しです。Porting Kitは2026年8月まで更新されている現役のツールですが、配布元が1つのサーバーに集中しているので、そこが落ちれば何もできません。

⚠ 誤解のないように書いておくと、この障害は約4時間で復旧しました(16:46に落ちていて、20:58には戻っていました)。1回の障害でツールの良し悪しを決めるつもりはありません。ここで書きたいのは構造の話です。復旧後にライブラリを開き直したら、ちゃんと1,500本が並びました。

復旧後のPorting Kitのライブラリ画面。多数のゲームがタイル状に並び、一部にFREEやUPDATEDのバッジが付いている

復旧後の「All games」。青いFREEバッジが無料で試せるもの、赤いUPDATEDがポートの定義が更新されたものです。

【下調べ】何で試すか ── 動画向けの許諾は、ブログには使えない

ここで一度立ち止まりました。何を入れて試すかです。条件は3つあります。

  1. 無料であること(このブログでは有料ソフトの検証はしません)
  2. ⚠⚠ アンチチートが入っていないこと
  3. 広告のあるブログで扱ってよいこと(各社のガイドラインを公式の原文で読む)

2つ目は仮想マシンでWindowsゲームは動くのかで痛い目に遭ったからです。あのときは「収益化してよいか」だけを見て「仮想化環境で動かしてよいか」を見落とし、アカウントが停止されました。互換レイヤーも同じ扱いを受けます。

3つ目で、無料バッジの付いたタイトルを1つずつ確認していったところ、同じ形の文面に3度目にぶつかりました。

publisher収益化の許諾の書き方
大手A社(p956で除外)「動画サイトの広告」による収益化
大手B社(p988で除外)「配信プラットフォームが正式に提供する広告」/「非営利目的のブログ」
大手C社(今回)「YouTubeパートナープログラムや他の動画共有サイトの同種のプログラム」

3例そろって見えてきたこと
ゲーム会社のガイドラインで「収益化してよい」と書かれているのは、たいてい動画配信プラットフォームが提供する広告の話です。自分のサイトに広告を貼るブログは、そこに含まれていないと読むのが自然でした。第三者のまとめサイトには「記載がないのでOKの可能性」と書かれていることもありますが、それは推測です。

そこで方針を変えました。Steamのクライアント本体を起動できるかだけを見ます。 ゲームを起動しないのでアンチチートにも規約にも触れませんし、なによりp956・p967で越えられなかったのが、まさにこの部分でした。

【実験2】Steamのポートを入れる ── 22分・337MB・1.5GB

左の「Sources → Steam」を開くと、先頭にSteamのロゴだけのタイルが3枚並んでいます。開いてみると、同じSteamクライアントで描画の経路だけが違うポートでした。

ポート名更新日描画経路
Steambuild 32/64bit DXVK2026-07-20DirectX → Vulkan → Metal
Steambuild 32/64bit DXMT2026-08-14DirectX 10/11 → 直接Metal
Steambuild 32/64bit Metal2025-11-28(D3DMetal系と思われる)

いちばん新しいDXMTを選びました。説明文に重要な条件が書いてあります。

DXMT版が動く条件(説明文の要約)
Apple Silicon かつ macOS 26(Tahoe)以上でしか動かない。Intel Macでは動かないのでDXVK版を使うこと。
売りとして挙げられているのは、Direct3D 10/11をMetalへ変換すること、WineD3Dよりフレームレートが高くCPU負荷が低いこと、シェーダのコンパイルによる引っかかりが少ないこと。

INSTALLを押すと別ウィンドウのウィザードが開き、8段の手順が始まります。⚠ ここで「インストールが始まったら、終わるまで他の操作をしないこと。特にwrapper準備とwinetricksの最中は」と警告が出ます。実際、素直に待つのが正解でした。

測った数字はこうです。

項目実測
所要時間約22分
ダウンロード量337 MB
できあがった .app1.5 GB(起動後は2.9GBまで増える)
└ Wine802 MB
└ プレフィックス488 MB

337MBのダウンロードから1.5GBのアプリができます。 差は展開とプレフィックスの構築ぶんです。

Porting Kitのインストーラの最終画面。The installation was successful. と緑のチェックマークが表示されている

【承前】中を開く ── Wineは11.0、器はWineskin

できたポートの中を見ます。ここがこの記事のいちばん大事な数字でした。

$ "~/Applications/Steambuild 32 64bit DXMT.app/Contents/SharedSupport/wine/bin/wine64" --version
wine-11.0 (PortingKit)
Wine
Whisky 2.3.5(手元)7.7
Porting Kit / Steambuild DXMT11.0(PortingKitの独自ビルド)

構造も見えました。

Steambuild 32 64bit DXMT.app/Contents/
├── MacOS/wineskinlauncher            ← 起動役
├── Wineskin.app                      ← Wineskin本体を同梱
├── SharedSupport/wine/bin/…          ← Wine 11.0(802MB)
├── SharedSupport/prefix/drive_c/…    ← プレフィックス(488MB)
└── SharedSupport/Logs

1つのポート=1つの .app に、Wineもプレフィックスも丸ごと入ります。 冒頭の図に描いたとおりで、2本目を入れれば同じだけディスクを使います。

もう一つ、見落とせない点があります。

$ lipo -archs "…/Steambuild 32 64bit DXMT.app/Contents/MacOS/wineskinlauncher"
x86_64                    ← Apple Siliconネイティブではない

起動役はx86_64、つまりRosetta 2の上で動いています。 p956で書いたとおり、Rosetta 2はmacOS 28(2027年秋)で終了予定です。DXMT版は「macOS 26以上」が条件なので、この組み合わせが使える窓はmacOS 26〜27の2世代ぶん、という見方ができます。

【実験3】起動する ── 2年越しの壁を越えた

ポートをダブルクリックします。説明文には「Steamポートの起動には文字どおり1分かかるので慌てないこと」と強調して書かれていました。

実際に起きたことは、まず500×500の白いウィンドウが5枚出ることでした。p956でランチャーが白画面になったときとそっくりで、正直「またか」と思いました😅

ところが約3分待つと、変わります。

Wine上で正しく描画されたSteamのサインイン画面。Steamロゴ、アカウント名とパスワードの入力欄、ログインボタン、QRコードがすべて表示されている

Steamのサインイン画面。ロゴ、入力欄、ボタン、QRコード、リンクまで完全に描画されています。

描画されました。 Steamの画面はCEF(Chromium)で描かれていて、そこが動かないというのがp956・p967の壁でした。

回Wine到達点
p9567.7 / 11.13ランチャーが黒画面。6つの対処すべて失敗
p9677.7(GPTK 3.0-3)NOTREACHED を10秒おきに繰り返し、「Steamwebhelperが応答していません」
今回11.0(PortingKit)+ DXMTサインイン画面まで到達

サインインすると、クライアント本体も普通に動きました。

Wine上で動作しているSteamクライアント本体。ストアページのバナー画像、日本語のメニュー、検索窓などがすべて正常に表示されている

クライアント本体のストアページ。バナー画像もサムネイルも日本語メニューも正常です(赤枠はアカウント名を伏せた部分)。

ちなみに2回目以降の起動は約40秒でした。「1分かかる」という説明は、初回だけ長いという意味だったようです。

【実験4】DXVK版で切り分ける ── 新しければ動く、ではなかった

ここで疑問が残ります。効いたのはWineが11になったからなのか、DXMTのおかげなのかが分かりません。

同じMac・同じSteamクライアントで、DXVK版(2026-07-20)を入れて比べました。まずWineの版を見ます。

$ "…/Steambuild 32 64bit DXVK.app/Contents/SharedSupport/wine/bin/wine64" --version
wine-10.0 (Sikarugir)         ← 版もビルド元も違った
Wineビルド元
Whisky 2.3.57.7—
Porting Kit / DXVK版10.0Sikarugir
Porting Kit / DXMT版11.0PortingKit

そのうえで起動しました。結果は3回とも同じです。

起動してから何が起きたか(各3回・2回) DXMT版 白い窓×5 サインイン画面 → 本体 ⭕ 2回とも到達 DXVK版 白い窓×4 更新ダイアログ ✘ 約3分で消滅 0分 3分 Wine 10.0 は 7.7 より新しいのに、辿り着けなかった

DXVK版はサインイン画面に一度も到達せず、約3分でプロセスごと消えました。 steamwebhelper(CEF)は起動するのに、その先へ進みません。

言えることと、言えないこと
2つのポートはWineの版・ビルド元・描画経路の3つが同時に違います。ですから「DXMTのおかげ」とも「Wine 11のおかげ」とも断定できません。言えるのはこの組み合わせだけが動いた、というところまでです。
はっきりしているのは、Wine 10.0は7.7より新しいのに落ちるということ。p970でもWine 11.13と11.14で結果が逆転しました。版が新しいほど良い、ではありません。

【承前】一度、読み違えました

この比較で、eightは一度間違った結論を書きかけました。書いておきます。

DXVK版で捕まえたSteamの更新ダイアログが、日本語が全部□(豆腐)だったのです。p967でも「日本語も豆腐」と書いていたので、「DXVK版は豆腐のまま、DXMT版は解決している」と早合点しました。

ところがDXMT版を起動し直して同じダイアログを撮ったら、こうなりました。

同じSteamの更新ダイアログを2つのポートで比較した画像。上のDXMT版も下のDXVK版も、日本語がすべて四角の記号になっている

上がDXMT版、下がDXVK版。どちらも豆腐で、まったく同じ見た目でした。

正しい切り分けはこうです。

日本語が出る/出ないは、どの層が描いているかで決まる Win32が描く部分 更新ダイアログ・エラー窓など Wineのシステムフォントを使う → 日本語が入っていないので豆腐 ★両方のポートで同じ CEFが描く部分 サインイン画面・クライアント本体 Chromiumが自前のフォントを持つ → 辿り着けば日本語は正常 ★DXVK版はここまで来られない DXVK版で豆腐しか見えなかったのは、豆腐が直っていないからではなく、CEFまで届かなかったから

片方でしか観測できていない現象を、両者の差として書いてはいけない——という当たり前のことを、また踏みました。

ただ、訂正したあとのほうが分かりやすくなりました。p956で「日本語の豆腐は Arial Unicode.ttf をコピーして解決した」と書きましたが、その対処が要るのはWin32側だけで、CEF側には要らない、という層の切り分けができたからです。

【整理】WhiskyとPorting Kitはどう違うのか

Whisky 2.3.5Porting Kit 7.0.2
料金無料無料
正体SwiftUI製のWineラッパーElectron製のマネージャ
Wine同梱(7.7)都度取得(10.0/11.0)
Wineの持ち方1つを全ボトルで共有ポートごとに1式(各800MB前後)
エンジンの選択実質1種類DXVK / DXMT / Metal など複数
ゲームの入れ方自分でインストーラを用意約1,500本のレシピから選べる(自作も可)
ストア連携なしGOG / Origin / Steam / Ubisoft Connect
開発2025年4月で終了2026年8月も更新中
配布元が落ちたら手元のものは動き続ける新規導入は不可能になる
同時に走るWine—⚠他のWineが動いていると新しいポートを作れない

最後の行は実際に踏みました。2本目を入れようとしたら「Wineのプロセスが動いています。動いている間は新しいポートを作れません。終了させますか?」という警告が出ます。一度に1つのWineしか面倒を見ない作りのようです。

【整理】どちらを選ぶか

Porting Kitが向いているのは、レシピのあるタイトルを手早く入れたい人です。約1,500本ぶんの手順が用意されていて、選んで待つだけで環境ができあがります。そして今回のように、Whiskyでは越えられなかったものが動くことがあります。エンジンを選べるのも強みで、1つ駄目でも別の経路を試せます。

Whiskyが向いているのは、環境を自分で握っておきたい人です。Wineを同梱しているので、配布元の状態に左右されません。ボトルを何個作ってもWineは1つぶんで済むので、ディスクにも優しい構造です。⚠ ただし開発は終わっているので、Wine 7.7から先へは進めません。今回の結果を見ると、これはかなり大きな制約です。

そして両方に共通する期限があります。起動役がx86_64である以上、Rosetta 2の終了(macOS 28・2027年秋の予定)がそのまま時計になります。 加えてDXMT版は「macOS 26以上」が条件なので、この組み合わせが使えるのはmacOS 26〜27のあいだ、ということになりそうです。

つまずき集

  • 公式サイトに直接のダウンロードリンクが無い。 itch.ioへ送られる。★Apple Silicon版とIntel版が別配布で、古い6.5.0も並んでいる
  • ライブラリが空になることがある。 ★配布元のサーバー障害。GitHubには現行のエンジンが無いので迂回できない
  • INSTALLボタンの1回目のクリックが空振りした。 Electron(Chromium)製のUIでよくある。2回押すと開いた
  • 白い500×500のウィンドウが5枚出る。 ★失敗ではない。初回は3分ほど待つとサインイン画面に変わる
  • 他のWineが動いていると、新しいポートを作れない。 先に終了させるか、警告で「Yes」を選ぶ
  • ⚠ 強制終了を挟むとSteamのログインは残らない。ポート自体は問題なく動く
  • Win32のダイアログは日本語が豆腐のまま。 ★CEFが描く部分は正常なので、どちらの層の話かを分けて見る
  • 片方でしか観測できていない現象を、両者の差として書かない。 ★今回それで一度読み違えた

まとめ

  • Porting Kit 7.0.2は無料で、Apple Siliconにネイティブ対応していて、署名も公証も通っている。 ⚠ ただしitch.ioからしか配布されていない
  • ★Wineを同梱しない。本体はElectron製のマネージャで、エンジンは都度取ってくる。ポート1本ごとにWineを丸ごと抱える(約800MB)
  • ★導入は22分・337MBのダウンロードで、できあがりは1.5GB(起動後2.9GB)
  • ★★Wine 11.0 + DXMT の組み合わせで、SteamのCEFがついに描画された。 p956とp967で越えられなかった壁を越えた
  • ★★ただしDXVK版(Wine 10.0)は3回とも落ちた。 7.7より新しいのに辿り着けない。版が新しいほど良い、ではない
  • ⚠ 3つの条件(Wineの版・ビルド元・描画経路)が同時に違うので、どれが効いたかは断定できない
  • ★日本語の豆腐は「層」の話だった。 Win32が描く部分は両方とも豆腐で、CEFが描く部分は正常
  • ⚠ 配布元のサーバーが落ちると、新規導入は完全に止まる(今回は約4時間)。「開発が続いている」と「いつでも使える」は別
  • ⚠ 起動役はx86_64=Rosetta 2の上。DXMT版はmacOS 26以上が条件なので、使える窓は2世代ぶん

Whiskyで止まっていた人には、試す価値が十分あると思います。無料ですし、駄目でもポートごと捨てれば元に戻ります😊

それでは、今回はここまで。最後までありがとうございました😊